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水戸地方裁判所下妻支部 平成10年(ワ)128号 判決 1999年3月29日

第一事件原告(第二事件被告) X

右訴訟代理人弁護士 杉本一志

第一事件被告(第二事件原告) 株式会社つくば銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 海老原信治

主文

一  第一事件被告(第二事件原告)は第一事件原告(第二事件被告)に対し、金四七万二〇一九円及びこれに対する平成一〇年五月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件被告(第二事件原告)の第一事件原告(第二事件被告)に対する平成八年一一月二八日付連帯保証契約(主債務者・有限会社a)に基づく金三〇〇万円の債務及び同日付保証人加入・脱退契約(主債務者・B)に基づく金二五五万円の債務は、いずれも存在しないことを確認する。

三  第一事件原告(第二事件被告)のその余の請求及び第一事件被告(第二事件原告)の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一事件及び第二事件を通じてこれを三分し、その一を第一事件原告(第二事件被告)の負担とし、その余を第一事件被告(第二事件原告)の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

1  第一事件被告(第二事件原告。以下、被告という)は第一事件原告(第二事件被告。以下、原告という)に対し、五四七万二〇一九円及びこれに対する平成一〇年五月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  主文二項と同旨

二  第二事件

原告は被告に対し、四七五万円及び平成九年八月一一日から支払いずみまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  第二事件の請求原因

1  原告は、平成八年一一月二八日、被告との間で、被告を債権者とし、訴外有限会社a(以下、a社という)を主たる債務者、訴外B(以下、Bという)を連帯保証人とする左記の金銭消費貸借契約について、連帯保証契約を締結した(以下、第一契約という。以上の事実は争いがない)。

金額 三〇〇万円

利率 年三・五パーセント

返済方法 平成八年一二月一〇日を初回とし以後毎月一〇日に五万円六〇回に分割して支払う。

期限の利益喪失 a社が本債務の支払いを一回でも遅滞したときは、当然期限の利益を喪失し直ちに本債務を弁済する。

この場合、支払うべき金額に対し年一四パーセント(年三六五日の日割計算)の遅延損害金を付して支払う。

2  原告は、同日、被告との間で、被告を債権者とし、Bを主たる債務者、Bの元妻訴外C(以下、Cという)を連帯保証人とする左記の金銭消費貸借契約(残元金二五五万円。<証拠省略>について、連帯保証人をCから原告に変更する保証人加入・脱退契約を締結し(以下、第二契約という。また、第一契約と第二契約を合わせて、以下、本件各契約という)、a社は、重畳的に債務引受をした(乙七)。

金額 三〇〇万円

利率 年四・七五パーセント

返済方法 平成八年三月一〇日を初回とし以後毎月一〇日に五万円六〇回に分割して支払う。

期限の利益喪失 Bが本債務の支払いを一回でも遅滞したときは、当然期限の利益を喪失し直ちに本債務を弁済する。

この場合、支払うべき金額に対し年一四パーセント(年三六五日の日割計算)の遅延損害金を付して支払う。

3  a社は、右1、2の各債務について、平成九年八月一〇日分以降の支払いを怠っているので、同日の経過により期限の利益を喪失した。

二  第一事件の請求原因

原告は、第二契約の成立を否定し、また、本件各契約は、被告の詐欺によるものであり、あるいは、原告の錯誤に基づくものであるとして(第二契約については予備的主張)、本件各契約に基づく債務の不存在と原告がすでに支払った平成九年一月分から同年四月分までの代位弁済金四七万二〇一九円(争いがない)の返還、慰藉料四〇〇万円(詐欺に基づく場合)、弁護士費用一〇〇万円及び遅延損害金の支払いを求めている。

三  争点

1  第二契約の成否

2  詐欺

3  錯誤

第三争点に対する判断

一  争点1について

<証拠省略>によれば、被告牛久支店の支店長代理D(以下、Dという)は、第二契約締結の際、第一契約とは別に第二契約を締結することを説明しており、原告は、それを了承したうえで第二契約を締結したことが認められ、これに反する<証拠省略>及び原告の供述部分は、前掲各証拠に加え、原告が、第二契約締結の際、書類の表題は読んだ、保証人加入・脱退契約書の意味は分かっていた、重畳的債務引受契約証書の重畳的の読み方をたずねたと供述していることなどと対比して、採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  争点2について

<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、a社は、Bが代表取締役となって、平成八年三月五日に設立されたもので(争いがない)、実質的にはBの個人会社であり、同日から同月三一日までの利益が一四万六三三九円で、他にこれといった資産はなかったこと、したがって、a社が本件各債務の支払いをできない場合には、被告及び原告に対して、Bは、最終的に責任をもって支払うべき立場にあったこと、Bは、本件各契約締結当時、被告に対し、二九六万九四七九円の借り入れ超過となっているほか、龍ヶ崎信用金庫から合計約一億円、サラ金数社から合計約八〇〇万円、住宅金融公庫及び国民金融公庫から合計約四〇〇〇万円の借り入れがあり、月々の返済額も多額で、唯一の資産である自己の土地、建物(Cに平成八年四月三〇日に贈与)を担保としても、支払い切れなく、すでに本件各債務に対する支払能力がなかったこと、平成九年一月には、Bの行方が分からなくなって、a社及びBは、本件各債務の支払いをしなくなったことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、証拠(証人D)によれば、被告は、a社については決算報告書(乙一六)、Bについては平成七年分の所得税の確定申告書(乙一五)を提出させ、前者については、短期借入金が一一〇万五四五〇円、当期利益が前記認定のとおり一四万六三三九円であり、後者については、平成七年分の営業利益が約二八三万九一二三円であり、Bとは平成三年からの取引で、これまで支払いが遅れることはあっても、支払いを怠ったことはなかったこと、したがって、被告は、a社ないしBの支払能力に問題はないと考えていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうすると、Dが、原告に対し、後記認定のとおり告げたとしても、故意に虚偽の事実を申述して欺罔したということはできない。したがってまた、詐欺に基づく慰藉料請求も理由がない。

三  争点3について

<証拠省略>によれば、原告は、自宅の新築工事を依頼したのがきっかけで、平成八年七月ころ、Bと知り合い、同年一〇月からは、a社の社員となったものの、付き合いが浅く、本件各契約締結当時、前記二で認定したような、Bの支払能力に問題があることを知らなかったことが認められる。

これに対して、被告は、原告がBと共同してa社を経営していたことから、Bの支払能力について知っていた旨主張するが、前掲各証拠及び乙一二号証によれば、原告が役員になったのは、平成九年三月であり、しかも、それは、同年一月にBが支払不能に陥って所在が分からなくなり、債権者がa社の役員であったCの元へ押しかけたので、その代りに名目上役員に就任したにすぎないものであるから、採用できない。

そして、原告が宅地建物取引主任の資格を有していて不動産業に通じており、Bから求められてa社に入社したこと(甲二〇の一、同二一)、したがって、原告は、Bの連帯保証人の要請に応じなければならない立場にはなかったことを考慮すると、原告が、最終的に責任を負うべきBに支払能力がないことを知っていたとすれば、本件各契約を締結しなかった(Bの要請を断った)と認められ(だからこそ、後記認定のとおり、DにBの支払能力を確かめたのである)、しかも、本件各契約締結の際、Dは、原告の「Bさんは大丈夫ですか」の問いに対し、「Bさんとは長い付き合いであり、Bさんは資産も信用もあり、支払いもきちんとしているので間違いありませんよ」と答えて<証拠省略>右原告の動機は表示されているとみることができるから、本件各契約は、錯誤により無効となるというべきである。

そうすると、本件各契約に基づく原告の債務の不存在及びその履行として支払った四七万二〇一九円の不当利得に基づく返還請求は理由があり、被告の請求は理由がないことになる。

なお、原告は、弁護士費用をも請求しているが、本件と相当因果関係があるものということはできない。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村俊夫)

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